銀の風

序章・大山脈を越えて
―6話・運命が動く時―


黒く、鈍い光を放つ外壁。不思議な曲線を描いた、銀色の2本の金属柱。
そして、その頂にそびえる先が尖った不気味な柱と、それを囲むように浮遊する棘が付いたリング。
天を突かんばかりに高い異様な塔は、全体から暗黒の力を放っている。
「これは・・?!」
以前の冒険中に見た、空高く浮かぶ機械仕掛けの塔とはまた違った、
異質な外観と雰囲気を併せ持った塔。
「なんて禍々しいの・・!!」
座り込んだまま、ローザが眉をひそめる。
何とか立ち上がり、塔を鋭い目でにらみつけるセシル。
いつの間にか、揺れは収まっている。
「ってー・・おい、何だありゃ?!」
「邪悪な塔や・・うちの力じゃ……対抗でき・・んよ・・」
反属性の空間は、属性を持つもの達にとって最も恐ろしいもの。
空間が持つ力よりこちらの力が上、もしくは同じくらいならばいい。
が、空間の力が上回れば、たちまち体力を奪われる。リュフタはまさしくその状態だ。
「リュフタ、あんた大丈夫?!」
アルテマが動転しながらもリュフタを気遣う。
だが、すでにリュフタは耳が倒れてひげもたれている。全く元気がなさそうだ。
「こいつ、聖属性なんだ。この塔は暗黒の力を持ってるから、てきめんだぜ!」
ケーツハリーが、忌々しげに塔を一瞥する。
「だからリュフタが苦しそうなの?」
フィアスの問いにケーツハリーがうなずく。
リュフタはもう宙に浮かんでいられず、地面にへばりついてしまっていた。
「主人、俺はリュフタ連れてちょっと幻界に戻る!OKか?!」
「かまわねぇ!後でもっかいお前呼ぶから、そん時リュフタつれてこいよ!!」
ケーツハリーはうなずき、鉤爪で傷つけないようにリュフタをつかむと、
空間に裂け目を作って幻界に戻っていった。
「・・その力は!!」
セシルに衝撃が走る。
以前共に冒険した少女の姿が脳裏をよぎる。
“言わないで!幻界の女王様に言われたの。
今、もっと大きな運命が動いているって……あたしたちが立ち向かわなくちゃいけないって……・。”
再開した時のあの言葉が、今も記憶に新しい。
ミストの大火事で、召喚士の中ではたった一人の生き残りであるリディア。
彼女の他に、もう召喚の力を操れるものはいないはずだ。
「ん、なんだよ?」
時を止められてしまったかのように目を見開いたまま動かないセシルを、
胡乱なまなざしで見返す。
「あなた・・召喚士なの?!」
ローザが目を見開いた。
セシル同様、彼女が知る限りでも召喚士はただ一人のはず。
「ローザ、それは・・後にしよう。今は・・この塔から離れる事が、大切、だ。」
今まで元気だったセシルが、いきなりガクッと膝をつく。
呼吸が荒く、顔も青い。本人ですら、急に体を襲った異変に戸惑う。
「セシル、大丈夫か?!!」
見ると、彼もリュフタと同じように苦しんでいる。
「今まではこんな事なかったのに・・一体、何故?!」
驚き戸惑う。今までどんなに負の力が漂うところでも戦ってきた彼が、何故。
そんな疑問が、ローザの頭をよぎる。やはり、それだけこの塔の負の力が強いという事なのか。
セシルが持つ強い聖なる力を飲み込みかけるほどに。
「みんな、あの建物が〜!!」
『?!』
フィアスが指差す塔の頂にある柱が、漆黒の稲妻を四方に放つ。
空には暗雲が立ちこめ、さながら嵐のようだ。
そして、稲妻のひとつが空気を切り裂いて一行を襲う。
視界を青白い光が切り裂いた。

「――――――!!!!」

次の瞬間、彼らは異空間に飛ばされていた。
辺りには稲妻が飛び交い、バチバチという音が耳障りだ。
「ここは一体・・?」
「ひゃ〜〜!!か、かみなりーー!!!」
フィアスは先程のセシルに負けないくらい真っ青になって、
目をきつく瞑って耳を塞いだ。
“くくくく・・如何かな、わが英知の結晶、ダークメタル・タワーは。”
どこからともなく、地を這うように低く、不気味な男の声が響く。
それには絶対の自信が潜み、張りがあることから推測するにまだ若い。
「誰だ?!」
カインが鋭く叫ぶ。さながら竜の咆哮のように。
“わが名はヴァルディムガル。五英雄……貴様らの力など、我らには恐れるに足らぬ。
これから貴様らに見せてやろう……。滅び行く大地の叫びを、な。”
再び声が響き始めた時、うっすらと闇の中に白い影が見えてまた消える。
「どういう意味だよ!!」
「何だと……?!」
セシルとリトラは、ほぼ同時に声を発した。
一体こいつは何者なのか。ギリッと、リトラが歯をかみ締める。
“何、今回はただの挨拶だ。
貴様らの運さえ良ければ、我が姿を垣間見る事も出来るだろうがな。”
「あなたは一体何者なの?!」
「答えなさいよ!!」
ローザとアルテマも叫ぶが、男の嘲笑が響くばかりだ。
あちらはこちらが全て見えているのであろうに、こちらからは相手の事が声以外つかめないのが腹ただしい。
“せいぜい、手をこまねいてみているがよい……。
くっくっく……ふはははははははは……”
声はここで途切れ、次の瞬間、一行は再び元の場所に居た。
あの雷は、空間を転移させるためのものに過ぎなかったらしい。
「何だったの……??」
やっと驚きから立ち直ったフィアスが、目をぱちくりさせながら問う。
周りを飛び交う稲妻怖さにずっと目を閉じていた彼は、
それに気を取られて何も分からなかったらしい。
稲妻におびえるとは、いかにも子供らしい反応だ。
カインの口から失笑が漏れた。
「とにかく、エンタープライズで城に戻ろう。君たちも来てくれ。」
「え、おれたちも??」
面食らったリトラは、思わず自分の方を指差す。
セシルはそれをうなづいて肯定した。
「そうだ。さ、早く行こう。」
リトラはぽりぽりと頭をかきながら、黙ってセシル達にについていった。
いまいち納得できない何かを感じながら。



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ここからが、本格的な物語の幕開けです。(遅い)
さくさく続きを書かねばいけないんですよね……。次回はバロン城・セシルとローザの部屋からですね。
やっと序章から1章に入れます。さて、超久しぶりに修正作業をしてみました。
フィアスが雷におびえる描写をしたら、緊張感が台無しになった感がありますが。
(2004/1/25修正)